~とくべつな日~
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              ~とくべつな日~



 朝、ぼくは学校に行きたくなかった。昨日、友だちとケンカをしたからだ。

「行きたくなかったら行かんでもいいぞ。そんな日もあるしな」

 お父ちゃんはぷかりとタバコをふかした。

「ほんとに?」

 意外な言葉にぼくは驚いた。

「休んでもいいが、ただし、今日はおれと付き合え」

 にやりと笑って、お父ちゃんはすぐに学校へ電話をかけた。

「体調がすぐれないので今日は休ませます。よろしく」

 あっけないほど簡単にぼくは休みを手に入れた。

お父ちゃんは会社を首になって失業中だ。

リストラだそうだ。充電も必要さ、そう言って本ばかり読んでいる。





「お母ちゃんがいない時でよかったな。そうでなかったら休めなかったぞ」

 お父ちゃんは、いたずらっぽく笑った。お母ちゃんは会社に勤めている。

いそがしいらしく、ぼくたちが起きてすぐに会社に出かけた。

「すぐに支度をしろ」 

 野球帽をかぶったお父ちゃんが、またにやりと笑った。

「今日はとくべつな日にしょう」





 ぼくたちは町へ出てレンタカーを借りた。ちょっと古ぼけた二人乗りの赤いオープンカーだ。

「こいつで、一日中ドライブだ!」

 お父ちゃんがハンドルをギュッとつかんだ。エンジンがギュウウンとうなった。

春のぽかぽか陽気の中、ぼくたちの車は、はねるように出発した。

 学校の近くを通った。登校中の同級生がいた。思わず帽子で顔をかくした。

「まぁ、気にするなって」

 ぼくの肩をお父ちゃんが叩いた。それからぼくたちは郊外に出た。

 潮風の当たるまっすぐな道を走った。緑の匂いのする曲がりくねった道を駈けた。

やがて車は吸い込まれるように高速道路にはいった。

「帽子を飛ばされるなよ」

 お父ちゃんは、ハンドルをしっかり握り直した。





グ―ン! 

体がシートにぴったりくっついた。となりの車が、あっという間に後になった。

青い空を見上げた。白い雲が飛ぶように流れる。

「若い頃、この車に乗りたくてなぁ」

 お父ちゃんはまぶしそうな目をした。

「買えなかったの?」

 ぼくは帽子を押さえながら聞いた。

「いや、無駄だと思ったんだよ」

「無駄?」

「そう。だって二人しか乗れないし、狭いから荷物もつめないだろう? それを考えると、欲しくても買わなかったんだよ」

「へぇ」

「どうだ。楽しい車だろ?」

「すごく楽しい!」

 ぼくらの笑い声が風に流れた。





「無駄というのは、自分が勝手に決めているだけで、ほんとはちっとも無駄じゃないのかもしれないなぁ」

 お父ちゃんは、自分に言い聞かせるように言った。

「今、お父ちゃんは仕事をしていないだろ?でもこれは無駄な時間じゃないと思うんだ。神様が大事な時間だから大切に使いなさいって、お父ちゃんにくれたと思っているんだ。だからいい仕事が見つかるまでは焦らない。お母ちゃんは怒るけどね」

「ふーん」

「無駄なことなんてないんだよ」

 前の車を追い抜きながら、お父ちゃんは、かみしめるように言った。

「今日、ぼくが学校に行かなかったのも無駄じゃないのかな?」

 おずおずと聞いてみた。

「そうだ! 当たり前だろ!」

お父ちゃんは、怒ったように言った。するとそれまでの重たい気持ちがするりと抜けて、車の外にころがった。

ぼくは両手を上げた。手のひらに気持ちのいい風が当たった。





「ねぇ! この車、買おうよ!」

「ばか! おれは失業中だ!」

 お父ちゃんはからりと笑った。






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一人暮し
かぶとむしこわれた
 なないろ風車・孤独



過日。何気に玄関に立ち。
空模様を眺めていたら。背後から声がかかり。

「あの~。あんた。ここの家の人?」

声の主は。小柄な60代半ばの知らない男性。
初めて見る顔だ。

「20年前から。あんたの家は知っているけど・・・
・・・・本人に会ったことがなかったもんでねぇ~」

男性は照れくさそうに笑った。
どうやら。近所の人らしい。

20年目にして。
オレに初めて会う近所の人がいる!!
なんて幸運な男性だろう!!

どう見ても話が合いそうにない。が(笑
そこはそれ。ご近所さん。

無理矢理。話を合わせた。
20年目にして・・・・初めてなんだし。

やがて。
男性は身の上話を始め・・・・・・・

最近。若い女房と別れた。小さい子供がいるが。女房に取られた。だからアパートで一人暮しをしている。年金生活は気楽でいい。お宅の家賃は?ほう。35000円。そりゃ高い。うちは32000円だ。家にいてもすることがないから暇で暇で。仕事を探しているが見つからない・・・・・・・etc.

話は終りそうになく。結局。
言いたいことは。一人暮しは淋しい・・・・・・らしい(笑





同じ一人暮しでも。
オレの一人暮しは長い。余りに長い(笑
一人に慣れすぎてしまったせいなのか。

日中。人が多いところや周囲が騒がしいところは。
ついつい敬遠してしまう。

だから。今更。
誰かといっしょに住むなど、とんでもなく!無理な話だ。

一人で暮らすことは淋しいことではない。不便なだけだ。
淋しいと思うのは。一人であることを望んでいないからで。

オレは。少なくとも。若い頃からどこかしら。
一人であることを望んでいた。そういう人間の質を持っていた。





アルク2009・9月度~小雨のアルク
銀杏


夜勤を終え眠りについた。
起きると。お昼前。それはいつも通りのことで。
なぜか3時間ぐらいで。目が覚める。眠りが浅い。

ならば。

起きたついでに。歩きますか!

生憎。外は。小雨。
にしても。傘をさすほどの雨ではないから。
Rainshoesにしている靴をはき。外へ出てみた。

雨に濡れた光景は。
普段より。くっきり見えて。ちょっといい。

近所の柘榴が赤い。柘榴は鬼子母神が食べる。
鬼子母神は子供を亡くした母親の怨念。子供をさらって食った。
お釈迦様に。それを諌められ。柘榴を食うようになった。
備前焼のような肌の下には。鬼子母神の赤い涙が埋まっている。

そんな哀れな話も。踏み切りを越えると。忘れてしまう。
歩けば忘れる鶏の頭が見たものは。満開のコスモスで。

おお。畑のコスモスが満開だ。微風に揺れている。
その様は。まるで婦女子の休憩タイムのようで。
傍に寄れば。きっと。たぶん。必ず。絶対に!
「誰かの噂話」をしているに違いなく。各々方。近づくまい近づくまい!(笑

オレの足は。広い空き地の前を通る。

見渡せば。カンナの群生。
オレンジ色の花は。少々。草臥れている。
それでも。群生だから。まとめてみれば。まだまだ現役で。
同じく群生したセイタカアワダチソウを見下ろして。
老いたりとは言え。このカンナ。おぬし等には負けるわけにはいかんのじゃ~(笑

爺さん相手も疲れるから。道の反対に目をやる。まだいたの?夏野菜!

夏野菜も命からがら。生き残っているのはゴーヤ。
貧相なゴーヤ。ゴーヤチャンプル選手権。みごとに予選敗退(T-T)

絹糸のような雨がやんで。銀杏並木を通る。

ああ。忘れていた。またまた。また。もうもう。もう。
銀杏の実を入れる袋・・・・・・ったくねぇ。

すっかり。黄色くなった銀杏の実は。
道に落ち。踏み潰されて。多数の犠牲者。
お医者様はおられませんか!お医者様はおられませんか!!(Stewardess風に)

はい。わたしが医者です(白い歯を。きらりと光らせて)

拾いあげると。思ったより小さいなぁ。
命に(種に)別条はない。
しょうがない。拾ってやるか。それが医者の使命。
担架がいるぞ!担架持って来い!
タバコを空き箱にして。その中に入れる。

ありゃま。

でかい実がなっている銀杏の木は。
でも。まだ。その実を落さず。金持ち喧嘩せず。高みの見物だ。
惜しい。下から見上げる。見上げても落ちてこない。う~~ん。

あの実は酸っぱいです(笑

ここでアルク2009登場。

デコッパチ=てぇ~へんだぁ!!親分!!理科大そばの生垣に。●●テープが!!

ゼニガタノ=ほう。●●テープなんざ。久し振りだな。最近はDVDばかりだしオレも欲しい(笑

デコッパチ=そうじゃなくて・・なぜ?●●テープが生垣に置かれてあったんでしょうか。
        これ。レンタル用なんすよ?おかしいでしょ?

ゼニガタノ=やっぱり●●テープは保管が大変なんだろう。家人に発見されると恥ずかしい(笑

デコッパチ=それは・・・あっしにも。わかりやすが・・・・・・(苦笑) 
        でも。(きっぱり改まった顔で)レンタルしたモノをですよ!!
        こんなところに置いて。どういうつもりなんでしょうかね?

ゼニガタノ=(あっけらかんと)・・・・・ただのポカじゃね?


さて。謎は迷宮入り。ということで(笑

帰り着いた後。待っていたかのように。雨が降り出した。
お天道様も。なかなか味な真似をするじゃねぇか!! なぁ。デコッパチ(へェ。親分)

拾った銀杏の実は。焼いて殻を剥いた瞬間の。
薄い透明な。あのちょっと神秘がかった。緑がいい!!
食べるの。もったいない!!

でも。食った。食欲には勝てねぇ!(笑
ついでに持ち帰った団栗も2個食った。
まぁ。食えるじゃねぇか?なぁ。デコッパチ(へェ。親分)

ああ。久し振りに歩いた。歩いた。歩くのはいい。
だるい気持ちがしゃんとする。

なぁ。デコッパチ?(へェ~~ィ。おやぶん・・・)

・・・・ったく!相変わらずやる気のねぇ野郎だぜ・・・・お前は(キセルを叩く音)
まぁ。でもなんだ。今回のアルク2009。収穫はなかったが。
言葉の収穫はあったんじゃねぇかな?オレはそう思うぜ。
・・・・・・そんなもんだろうさ。アルク2009ってのはよ!(顔を弾かせて笑う)


ちぇ。デコッパチのヤツ。寝てるのか。いい気なもんだぜ。オレは今日も夜勤だってのによ(笑






そして・いろんないろがありまして
カッターシャツ



衣服の色の好みは。
年とともに変って行く。

20代前半は。草色。灰色。茶色と。
すごく地味だった。

派手な色は。不安になるから。嫌だった。
人見知り。対人恐怖。赤面症。

それらの色は。
自分の姿を隠したいという「無意識」が。

隠れ蓑。保護色として。
選んだ色だったに違いない。

20代中盤になり。
黄色いシャツをプレゼントされた。

明るい色が着れるようになった。
多少の恋も経験したから。

それでも。なんとなく。
遠慮がちに着ていた。

30代になり。
カッターシャツが定番になった。

いつでも。どこでも。
白いカッターシャツにジーンズ。

すぐに汚れが目立つのは。
嫌だったが。

洗い立てのカッターシャツの。
匂いが好きだった。

40代になり。白はあきらめた。
白が似合わないように思えた。

オレは。断じて。
そういうタイプではないことを悟った(笑

そして現在。

人が変ったように。
何色でも着るようになった。

しかも。
派手な色を選ぶようになった。

赤でも。ピンクでも。
オレンジでも。ブルーでも。

草色は。明るいグリーンになり。
灰色は。落ちつたブラックになり。
茶色は。まばゆいオレンジになった。

過去。選んだ服の色には。
その時代その時代の。

自分の心のありようが。
なんとなく反映されている。




画家になる方法
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K画廊のKさんが。
ある母親に相談を受けた。

「息子が画家になりたいと言っていて。
わたしもそうさせてやりたいのですが。
・・・画家になれるものでしょうか?」

Kさんの答えがどうだったか。忘れてしまったが。
彼の日頃の絵に対する考え方は。もう充分に知っているので。
おそらくこう言っただろうと思う。

「画家というのは。最初から画家なんです。
画家は。なろうとして。なれるものではないのです」

Kさんの絵に対する考え方の根本は。
いつかこのブログに書いた「州之内 徹」の考え方が大きく反映している。

「美大を受験されたら?」と言うのが。通常だろうが。
Kさんにしても。オレにしてもそうだが。
「州之内 徹」に影響を受けた人間ならば。
けして。無責任に。そういう言い方はしない。

無論。美大経由から。画家になった人は多いだろう。
そのことが。いいとか悪いとかではなく。その経由が問題なのではなく。

その人の心に。心の真中に。
「画家が住んでいる」か。どうか。それがすべてということだ。
そのことを「州之内 徹」は常に言っていた。

これは訓練でない部分。技術でない部分で。
本人が「最初から抱えているもの。魂の部分」だから。
だから。どうにもならないものだ。

逆を言えば。それを抱えている人は。どこにいても。
どんな暮らしをしていても。やはり画家なのだ。絵描きなのだ。

誰でもその気さえあれば。画家になれる。
絵の世界もいろいろだ。需要と供給の世界でもある。
運さえよければ。評価され。画家として食えるかもしれない。
しかし。それとこれは。まったく関係のない話だ。

近所にMRさんという画家がいた。もう亡くなって10年ぐらい経つ。
彼は。昔の東京芸大を出たぐらいだから。絵の技術は相当なものだった。
しかし。世に出なかった。自らそれを絶ってしまった。

若い頃。初の個展をした時。画廊と喧嘩になり。それ以来。
作品を世に送らず。野山を歩いては。絵を描き。小さなアトリエに。
たくさんの絵を残された。生計は奥さん・息子さんが支えたらしい。

生前。額縁を作るために。お会いしたことがある。
その頃は。すでにかなりの高齢で。病気がちだったが。
鋭くモノを凝視する「目」で。
何か思い詰めたような表情をされていたのが印象的だった。

「あなたも絵を描かれますか?」

MRさんに尋ねられた時。オレは。返答に困った。
「はい。そうです」
一応。そう答えたが。

彼から見れば。「描いているレベル」ではないから。気恥ずかしかった。
だが。それが。MRさんから聞いた最初で最後の「言葉」になった。

MRさんは。生前。1枚の絵も売れなかった。
売らなかったと言ってもいい。では。MRさんは画家ではないのか?

やはり。MRさんは。紛れもなく画家だ。
損得抜きの。「自分」との戦いに明け暮れた画家なのだ。

画家は作られるものではなく。初めから画家でなければ務まらない。
そうでなければ。

本人が絶望するだけだろう。
オレは。そう思う。