お話~Lの小さな話
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カエルのLは。
田んぼの中に住んでいる。
何も好きで。
住んでいるわけではない。

父さん母さん。
爺さん婆さん。
先祖代々。
皆ここを離れずに。
住んでいたから。
自分もついでに。
住んでいるだけのことだ。

だから。
田んぼ以外の世界は。
何も知らないし。
ここ以外の生活など。
考えられない。

ぼんやり。
夕陽を眺めていると。
風が吹いて来た。

風は6月らしく。
蒸し暑く。
心地の良い風だ。

あ~。どうも。
こんにちは!
はい。これ。どうぞ!

風がそう言って。
手渡したのは葉書。
沼に住むカエルのKから。
届いたのものだ。

ある日のことだ。

Kが道に迷って。
田んぼの中に入り。
途方に暮れているところを。
Lが声をかけた。

その時のお礼の葉書だ。

田んぼから沼までの。
丁寧な地図とともに。
こう書いてある。

「いつぞやは。
 ありがとうございました。
 お陰で無事に家へ帰れました。
 さて。
 近頃は雨が続いて嬉しい限りです。
 お陰で散歩をするのに。
 いい季節になりました。
 ところで。
 よかったら明日にでも。
 こちらの沼へ遊びに来ませんか?
 美味しい水草ティーがあります。 
 カタツムリケーキもありますよ。
 いっしょに食べましょう!
 お待ちしております」

Kの気持ちは嬉しい。
けれど。
外の世界は怖いんじゃないかな?
Lは考える。

途中で鳥やネズミに。
出会うかもしれないぞ?
そしたら。
どこに隠れたらいい?
田んぼから出ないほうが安全だ。
そうに決まっている。

でも!カタツムリケーキが食べたいな!

翌日Lは。
片手に葉書を持って。
田んぼから出る。

雨に濡れた畦道。

黄色いタンポポ。
赤や青の紫陽花。
みんな宝石のように光っている。

用水路には。
たくさんのメダカがいて。
Lに向かって。
小さな手を振っている。

その上には。
緑色のイトトンボがいて。
ひと時も休まず。
前後左右に飛んでいる。

更に上を見上げると。
トンビがクルクル回って飛んでいて。
鋭い目で睨んでいる。

Lは思わず雑草の中に隠れる。

「やだな~。こわいな~。
 はやく行ってくれないかな~」

しばらくすると。
トンビは東の空に飛んで行き。
見えなくなる。

雑草から頭を出したLは。
ふ~っと。
大きな息を吐く。

胸のドキドキが止まらない。

大きく深呼吸をして。
気持ちを静め。
また沼に向かって歩き出す。

しばらく歩くと。
鮮やかな黄菖蒲の花が見える。
沼だ。急いで沼に駆け寄る。

蓮の葉の上にKがいる。

Lはザブンと水に入り。
蓮の葉まで泳ぐ。
水は温くて気持ちがいい。

「よく来たねぇ」

Kが笑顔で。
Lに手を差し伸べる。
蓮の葉に上がると。
ふわふわして。
まるで雲の上にいるようだ。

目の前に。
白いテーブルがある。

「どうぞどうぞ。腰かけて」

KはLにそう言うと。
カタツムリケーキを二つに切り。
小皿に取り分け。
葉っぱで作ったコップへ。
透明な緑色の水草ティーを注ぐ。

「これ。今朝作ったばかりなんですよ」

水草ティーで乾杯し。
カタツムリケーキに手を伸ばす。

甘い香りと。
トロッとした感触が。
舌に気持ち良い。

「美味しいねぇ」

Lが思わず。
顔をほころばせる。

Kも一口頬張って。
笑顔を返す。
「うん。美味しい!」

食べたり。
飲んだり。
話したり。

そうしているうちに。
これまであった田んぼ以外への不安や。
トンビを見た時の怖さが消えいく。

そう感じると。

水面で跳ねていた雨音が。
急に軽快なワルツのように。
聞こえ始めた。




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お話~或る男の話
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ある日。男は自分の背中に羽があり。自由に空を飛べることを知った。そうして。その日から毎日毎日。空を駆け巡る生活が始まった。男は夢中になって縦横無尽に。思うがままに世界を飛びつくした。やがて何年かすると。羽の形が薄くなっているのに気が付いた。それでもなんとか飛べる。飛べるうちは飛んでいよう。男はそう思って尚も飛び続けた。しかし次第に大きかった羽がしぼみ始め。飛ぶことが困難になった。男は空を飛ぶことは充分に楽しんだし。今度は歩けばいいのだと気楽に考えていた。すべての羽が消えてしまい。男は地上に降り立った。そして気が付いた。自分の足が退化し。すっかり無くなっていたことを。



お話~がんばれ!おとうふまん
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「しんちゃん。
 おとうふをさわっちゃだめですよ。
 くずれてしまうから」

「へへへ」

しんちゃんは。
おとうふをゆびでつついていました。

「ぷるぷるしてきもちいいもん」

ぶすっ。ゆびが。
おとうふのなかにはいりました。

「いてぇな!」

おとうふが。
ぶるぶるふるえておこりました。

「やい!
 よくもおれさまのからだに。
 あなをあけてくれたな。
 どうしてくれるんだ!」

「ごめんなさい。いたかった?」

「こいつめ~!」

おとうふは。ぴょんととんで。
しんちゃんのほっぺにぶつかりました。

「ひゃー。つめたい!」

「どうだ!さっきまで。
 れいぞうこのなかにいたからつめたいだろう!
 ははは」

おとうふは。そういって。
いえのそとへにげてゆきました。

「おれさまは。
 おとうふまんだ。
 つよいつよいおとうふだ!」

しんちゃんは。おなべをもって。
おとうふまんをおいかけてゆきました。

「おーい!まてよぅ!」

おとうふまんは。
さかなやさんであばれていました。
さんまをあいてに。
けんかをしています。

「さんまなんかにまけないぞ!」

「おとうふなんかにまけないぞ!」

さんまが。
おとうふまんにかみつくと。
おとうふまんのかどがくずれました。 

しんちゃんは。
あわててくずれたところをおなべにいれました。

「こいつめ!」

おとうふまんは。
さんまにたいあたりをしました。
さんまはひっくりかえって。
かれいのうえにおちました。

かれいはおこって。
さんまにかみつきました。
とうとう。
さんまとかれいのけんかになりました。

「おれさまは。
 かんけいないっと!」

おとうふまんは。
ぺろっと。
したをだしてにげてゆきました。

しんちゃんもあわててついてゆきました。

「おーい!まてよぅ」

「おれさまは。
 つよいおとうふまん!
 どんなやつでもかかってこい!」

「わんわん」

 おおきないぬがほえました。

「なんだ!いぬのやつめ!」

おとうふまんは。
いぬのはなのうえにとびのりました。
そしてはなのあなを。
こちょこちょくすぐりました。

「はっくしょん!」

いぬがくしゃみをしました。
おとうふまんは。
ぶーんと。とばされて。
でんしんばしらにぶつかりました。

「いててて」

おとうふまんのかどがとれました。
しんちゃんは。
あわててそれをおなべのなかにいれました。

おとうふまんは。
ぶるっとからだをふるって。
にげてゆきました。

「もう!まてったらぁ」

こんどは。
くだものやさんであばれています。
ぱいなっぷるが。
おとうふまんをつかまえていました。

「はなせ!」

「はなすもんか!こうしてやる!」

パイナップルは。
じぶんのからだでゴリゴリ。
おとうふまんをこすりました。

すると。
おとうふまんのからだが。
はんぶんくずれました。

しんちゃんは。
おおいそぎでくずれたところを。
おなべのなかにいれました。

「いたいじゃないか!」

おとうふまんは。
ぱいなっぷるをけとばしました。
ぱいなっぷるはごろんと。
ころがって。
したにおちました。

「やーい!かった!かった!」

からだが。
はんぶんになっても。
おとうふまんは。
げんきです。

するとまえから。
くるまがはしってきました。

「あっ!あぶない!」

しんちゃんがこえをだしました。
おとうふまんが。
くるまにぶつかったのです。

「わ~っ!」

おとうふまんは。
はねかえされて。
しんちゃんのおなべのなかにおちました。

「だいじょうぶ?おとうふまん!」

しんちゃんは。
おなべのなかをのぞきました。
おとうふまんは。
ぐちゃぐちゃになっていました。

しんちゃんは。
いえにかえって。
おかあさんにいいました。

「おとうふが。
 こんなになったよぅ」

しんちゃんはなきそうです。

おかあさんは。
ぐちゃぐちゃになったおとうふをみて。
あわてずにいいました。

「あら。ちょうどいいわ!
 こんやは。
 マーボドーフにしましょう!^^」

しんちゃんは。
にっこりわらいました。

「ぼく。マーボだいすき!^^」  



おしまい。



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初期のお話です。
平仮名ばかりで読みにくいですが。
漢字は似合わないですしw^^;

童話というより落語ですね。
如何にマーボ豆腐まで持っていくか?
そればかり考えて書いておりましたw

自分の書いたお話の中でも。
元気な作品で。
「がんばれ!トンカチくん」
(誰も知らんw)
とともに捨てられませんw^^)/




お話~ナポレオン亭の豚
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ナポレオン亭という母と娘が働くだけの。
小さなとんかつ屋があった。

ある日のこと。
そのナポレオン亭に一匹の子豚が飛び込んできた。
丘にある養豚場から逃げてきたようだった。

子豚は狭い店の中を走り廻ったが。
すぐに捕まり麻袋に入れられた。
捕まえたのは店の娘だった。

子豚は袋に入れられる際。
娘の柔らかな手と頬を撫でた長い髪に。
胸がときめいた。

そして思った。

「なんて素敵な人だろう・・・」

子豚は丘の上にある養豚場に連れ戻された。
しかし何日たっても。
娘のことが忘れられなかった。

「おい。ポポなにをぼんやりしているんだ?」

食欲がなくなり。
痩せてしまった子豚ポポに。
声を掛けたのはゴブという子豚だった。 
ゴブはエサを食べながら。
浮かぬ顔のポポに言った。

「お前の気持ちもわかるけど。
 人間の娘に恋をしてどうするんだ? 
 おれたちは養豚場の豚だ。
 ゆくゆくは立派な肉として市場に出て行く。
 市場はおれたちの晴れ舞台だ。
 いい肉になるためには。
 エサをどんどん食わねばならない。
 痩せている場合ではないんだ。
 今のままじゃ不良の肉になっちまう。
 晴れの舞台に立てないぞ?ポポ」

ポポは少し食べては溜め息をつき。
口の中のエサをなかなか飲み込めなかった。

「ゴブは恋をしたことがないから。
 そんなことが言えるんだよ」

「恋ぐらい知ってるよ。
 となりの小屋のカエデさん。
 おれは好きだったんだよ」

「へぇ。あの叔母さん?最近見ないね」

「立派な肉になるために出て行ったんだ。
 別れの日。
 何度も何度も鼻をふって泣いていたなぁ。
 悲しかったなぁ・・・」

ゴブは思い出を振り切るように。
鼻水を流しながら。
ガツガツえさを食った。

「ゴブもつらいことあったんだね。
 でもぼくね。豚のメスはきらい。
 どうも豚みたいで」

「ばか。豚だろ。おれたちは。
 お前は自分が豚だってこと忘れているんじゃないか? 
 いい加減に目をさませ。
 豚だと思わないから。
 人間の娘なんぞに熱をあげるようになるんだ。
 オレと同じ豚・豚・子豚なの。お前は!」

「ぼくはどうも豚じゃないような気がする。
 だからここも嫌い」

ポポは足で鼻をかきながら。
あの娘の所へ行きたい。ここから出て行きたい。
そうゴブに言った。

「やれやれ。
 たぶん逃げても前のように。
 すぐに捕まるだろうが。
 やってみるかい?」

「うんうん。やるやる!」

「それでは夜中に他の豚が寝たら。
 出入り口のところで待っていろよ」

満月が養豚場にかかる頃、
小屋の出入り口に二匹の豚の影があった。

「どうするんだよ?ゴブ」

「いいか。まずおれがお前に空気を送って。
 お前の体を風船玉のようにふくらませる。
 そしたらおれが大声で叫ぶよ。すると飼い主がくるだろう。
 扉が開いた時が勝負だ。お前は扉におしりを向けて、
 思いきり空気をはき出すんだ。
 そうすりゃ鉄砲玉みたいに飛んで行く」

「うんうん。
 でもどうしたら風船玉みたいにふくらむの?」

「こうやって」

「キッスした!」

「何言ってるんだ。お前に空気を入れるんだよ」

ゴブは鼻と鼻をくっつけてブンブンと息を送りはじめた。
ゴブのピンク色の顔がだんだん赤くなった。
ポポのしおれた体は風船のように丸くなっていった。
ポポがまん丸になると。
ゴブはめまいがして倒れそうだった。

「頭がクラクラだよ」

「ウグウグ・ウグウグ」

「よーし。待っていろ、
 今から大きな声を出すからな。
 スー・ハー・スー・ハー」

小屋の中から丸いピンクのかたまりが。
弾けるように月夜に向って飛び出したのは。
それからしばらく経ってからだった。

ポポは満月を横にみながら飛んでいた。

「月がきれいだこと」

渡り鳥に外国語でどこへ行くのか。
尋ねられたが。
返事をする間もなくポポは池に落ちた。

「助けてくれー!アッププ」

カエルがスイスイそばにやって来て。
ぽつりと言った。

「あんたは泳げる。豚は泳げるんだから」

「えっ?
 豚は泳げるかもしれないけど。
 ぼくは泳げないよう。ブブブ」

「豚だと思えば泳げる」

「泳げないよう。プププ」

短い足をバタバタさせ。ブクブク沈んだ。
カエルは信じられないというような顔で見ていたが。
仲間のカエルたちを呼んで岸まで引き上げてくれた。

「助かったぁ。死ぬところだった」

「あんた。自分を豚だと思ってないね? 
 昔いたのよね。あんたみたいなのが・・・」

「ぼくみたいなの?」

「うちの亭主の話。
 昆虫学者になると言って。
 朝から晩までたくさん難しい本を読んで。
 毎日アリの穴を覗いてた・・・」

「それでご主人は?」

「カエルのくせに冬眠するのを忘れてね。
 アリの穴のそばで。
 カラカラになって死んじゃった・・・」

「かわいそうに」

「これからどうするの?」

ポポは娘のことを思いをこめて話した。
カエルは諦めたように言った。

「亭主もいくら言ってもだめだったからね。
 まぁ。せいぜいがんばることだね。
 でもね。うちの亭主みたいになるんじゃないよ。
 あんたはどこまでも豚だ。
 豚・豚・子豚なんだよ。
 それを忘れちゃいけないよ」

「豚・豚。言わないでよ。
 でも助けてくれてありがとう」

 月夜の下をとぼとぼ歩くと灯りが見えてきた。

「やあ。彼女のいる町だぞ。ようやく会えるんだ」

ナポレオン亭はポポの記憶によれば。
橋のそばにあるはずだった。
しばらく川に沿って歩くと、
玄関のガラスに白くナポレオン亭と書かれた家を見つけた。

夜でもあるし店は閉まっている。
いつかのようにいきなり飛び込むということができない。
店の後に廻ると窓があった。
誰か起きているようで明かりが漏れている。

中を覗こうと思ったが背が足りない。
しばらくうろうろしていると窓が開いた。
ポポは驚いて隠れた。

「彼女だ!」

ポポは喜びで全身が震えた。
月の光に照らされた娘の顔は透き通るように白かった。
長い髪を手に巻きつけながら。
何やらもの思いに耽っている。
娘の放つ香りがポポの鼻をくすぐる。

「どうしたんだろう。
 やけに寂しそうな顔をしているな。
 ああ。もっと微笑んでくれたら。
 どんなにいいだろう・・・」

ポポが胸を痛めていると。
娘は酷く咳込んだ。
後ろから母親の声がした。
娘は窓を閉じた。

「風邪でもひいているんだろうか。
 それとも重い病気だろうか。気になるなぁ」

「おい。そこの子豚」

後ろから声がした。
振り返ると黒猫がいた。
偉そうにふんぞり返り。
ポポを睨みつけている。

「すみません。怪しいものじゃないです。
 お嬢さんを見ていただけです。
 ほんとにそれだけです」

「豚がお嬢さんに何の用だ。
 ははん。そんなこと言って。
 お前どろぼうだろう?」

「いえ!違います。
 どろぼう猫って言うぐらいだから。
 あなたこそ怪しい?」

「ばかな。おれはここの店のものだ。
 それに血統書付きの猫だぞ」

「えっ?こちらのお方ですか? 
 それは失礼しました。
 ぼくはポポです。お嬢さんに会いたくて。
 丘の上の養豚場からやって来ました。
 趣味は・・えーと・・鼻そうじで。
 好きな食べものは・・・」

「そこまで聞いてない。
 豚の趣味を聞いてどうするんだよ。
 しかし聞き捨てならんことを言うな。
 お嬢さんに会ってどうしょうと言うのだ?」

「ただ会いたくて会いたくて出てきたのです。
 やましい気持ちは全然持っていません」

「ますます変な豚だな。
 まるでお嬢さんに惚れたような言い草だ」

ポポは思わず顔を真っ赤にして俯いた。
猫はそれを見て腹をかかえて笑った。

「これはおもしろい。
 豚・豚・子豚が。ははははは」

「あの・・笑い過ぎです。
 いい加減にしてください。
 真剣なんです」

「困った豚だな。ははは」

「ひとつだけ聞かせてください。
 お嬢さんは病気なんですか? 
 酷く咳をしていらしたけれど?」

猫は急に笑いをやめて。
深いため息をついた。

「おれも心を痛めているんだ。
 お前の言うようにひと月前からああいう咳が出てな、
 熱もあるらしい。
 だけどお嬢さんが休むと店がやっていけないだろ。
 母親は病院に行けと言っているんだがね」

「かわいそうに。
 ぼくに何かできることはないかなぁ。
 何か役に立ちたいなぁ」

「ありがたい話だけど。
 お前にできることはとんかつになるぐらいしか。
 ないんじゃないのか?」

「たとえ食用の豚でも。
 それ以外のことで役立つことは。
 できるのじゃないでしょうか?
 たとえば・・・」

「たとえば?」

猫は大きなあくびをして目をこすった。

「お店のお手伝いをするとか。
 お嬢さんのお世話とか。いろいろと」

「豚に世話される身にもなれよ。
 たぶん迷惑だぞ。
 やはりここは愛のためにとんかつになって食われろ。
 さあ。夜もだいぶ更けてきた。
 お前も早く家に帰って寝ろ」

猫はあくびをしながら裏口の猫専用のドアをくぐった。
ポポは愛のためにとんかつになってもいいと考えたが。
自分をそんな能のない豚とは認めたくなかった。

ナポレオン亭の玄関にまわって。
月明かりに照らされたガラス戸に自分の姿が映った。
どこからどう見てもただの豚だった。

「豚・豚・子豚かぁ・・・」

ポポはポツリそう呟いて。
玄関側の壁に寄りかかった。

「役に立つためには。
 やっぱり肉になるしかないのかな・・・
 他に方法はないのかな・・・」

うつらうつらしながら。
そう考えていると。
足音が近寄って来るのに気がついた。
足音はナポレオン亭の前で止まった。

見ると黒いズボンをはいた人間の足が。
ひい・ふう・みい・四本あった。
どうも店の中を覗いているらしかった。

「おかしいな。
 どうするつもりだろ?」

四本の足は突然。
玄関のガラス戸を蹴破ると。
ガラスの破片とともに中へ入って行った。
ポポは破片で耳を切った。

「あちちち。たいへんだ!」

ポポは破れたガラス戸から中へ飛び込んだ。
薄明かりの下にテーブルの脚が何本も見えた。
カウンター上のレジがガチャガチャなった。

ポポはその音をめがけて走った。
二本の足が見えた。
思いっきりふくらはぎに噛みついた。

悲鳴をあげて二本の足は転がった。
すると他の二本の足が駆けつけて。
ポポの腹を蹴り上げた。

我慢してこらえたが。
続け様に腹へ何かが刺さり。
するどい痛みが走った。

目がくらみそうになったが。
蹴った足に猛然と噛みついた。
二本の足は床に倒れて転げ回った。

ポポも余りの痛さに床へ倒れた。
倒れると同時に見覚えのある女の足が見えた。
その足はガタガタ震えていた。

遠くにサイレンの音が聞えた。
サイレンの音が店の前で止まった時。
たくましい足がたくさん入って来た。
その足たちは苦しんでいる四本の足をむりやり立たせ。
店の外に連れ出した。

ポポはそれを見届けると気を失った。

気がつくと温かな毛布にくるまれていた。
ポポの頬に長い髪の毛があたった。
顔を上げた。娘の顔があった。

「お嬢さんだ。良かった。
 無事だったんですね。
 ああ。何て言っているんだろか?
 やさしそうな唇だなぁ。
 きれいな瞳に小さなかわいらしい鼻。
 ぼくの鼻とずいぶん違うなぁ」

柔らかな手が背中を撫でた。
ポポは胸がいっぱいになった。

「いつまでもそばにいたいなぁ・・・
 何かの役に立ちたいなぁ・・・」

しかし気が遠くなり。
やがて何も感じなくなった。

翌日。連絡を受けた飼い主が。
ナポレオン亭を訪れた。
飼い主はポポを毛布のまま抱きかかえ。
自分の車に乗せた。

娘と母親は車が走り去るのをいつまでも見送った。

後日。車に乗った飼い主が。
ナポレオン亭の前を通った時のこと。
娘が玄関のガラスを拭いていた。
新しいガラスには白くナポレオン亭と書かれてあった。

それは前と同じだったが。
以前と違うのは文字の下に。
ピンク色の豚の顔が描かれてあることだった。
娘が撫でるように拭くその豚の絵は。
どことなくポポの顔に似ているように見えた。

「いつまでもそばにいたいなぁ・・・
 何かの役に立ちたいなぁ・・・」

あたかもポポの願いが叶えられたように。
豚の顔は明るく笑っていた。




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自分を豚だと思っていない(実は思っているけれど)
認めたくないポポのお話でした。
本来あるべき姿で一生を終えるのが。
生き物として幸せなことだと思います。

何故なら神様がそういうふうに作ったからで。
白い花は白い花でいいように。
自ら赤い花になろうとしなくていいのです。

ところが世の中には夢を見る者もいます。
イカロスの翼を持ちたい者もいるのです。
昆虫学者になろうとしたカエルやポポは。
その仲間のひとりです。

彼らは傍から見ればバカな生き方をしたように見えます。
自分本来のあるべき姿さえ忘れなければ他の仲間と同じように。
安寧に人生を全うできたはずです。

しかし彼らにとってはとても自然なことでした。
夢の中でしか彼らは生きていくことができなかったからです。
確かに彼らの行動は愚かでしたが。
作者は単に愚かだったとは思いません。
むしろ悩みながらよく戦ったと共感してしまうのです。
(作者は彼らに似ているのです)

豚としての生き方を拒否したポポは。
運悪く不幸な死に方をしました。
でも豚の絵として生まれ変わって店の看板になり。
ナポレオン亭にいることが出来ました。

彼はとても喜んでいると思います。
夢を見ていたポポにとって。
一番ふさわしい場所を見つけたのですから。



お話~とうりゃんせ診療所(3-3)
とうりゃんせ診療所③

びん





「せんせい。またきました。
 ごめんなさ~い。
 これがおれちゃったんです」

診療室に。
髪が長くて目のくるりとした女の子が。
入って来ました。

「やあ。ヨウコちゃん。 
 まぁそこへ。おかけなさい。
 どれどれ。みせてごらん」

先生がヨウコちゃんから渡されたのは。
細い薄緑色の色鉛筆でした。
芯がぽきりと折れていました。

先生の前で。
うつむいていたヨウコちゃんが。
顔を挙げました。

「なんど。けずっても。
 しんがおれてしまうんです。
 わたしがうそをいったから?」

ヨウコちゃんは言葉を続けました。

「いもうとが。いけないんです。
 百てんとったのをじまんするから。
 くやしくって。
 うそをついたんです。
 わたしも百てんとったって。
 いったんです」

「それで。
 このえんぴつをつかって?」

「そうです。
 このえんぴつをつかって。
 こっそりかきなおしたんです。
 百てんに」

「そしたら。ぽきぽき。
 おれるようになったんだね?」

「はい」

「きみはね。
 いもうとさんじゃないんだよ。
 きみはきみなんだから・・・」

「はい。
 このまえもおなじことをいわれました。
 ごめんなさい。
 でもくやしくって・・・」

「がんばってうそをつくより。
 がんばってほんとうのことをいおうよ。 
 ウソの百てんより。
 ホントの0てんのほうがいいんだよ^^」

ヨウコちゃんは小さく頷きました。

「それじゃ。
 なおしてくるからね。
 まっていなさいね」

先生が部屋から出ていくと。
ヨウコちゃんは以前と部屋の様子が変っていないので。
安心したように辺りを眺めていました。

 ボーン ボーン ボーン

「ひゃっ!」

ヨウコちゃんは柱時計を睨みました。

「はじめてじゃないけど。
 このおとには。
 びっくりするなぁ」

「あははは。
 ごめんねぇ。
ヨウコちゃん」

先生がヨウコちゃんのそばに来て。
いたずらっ子のように舌を出しました。

「いろんなものをなおすのに。
 とけいはなおせないんですか?」

「いたいところを。
 つかれましたねぇ。
 おっしゃるとおりです。
 はいこれ。どうぞ」

「わぁ!うれしい!」

ヨウコちゃんに渡された緑色の鉛筆は。
きれいに芯がとがれて。
まるで新品のように光っていました。

「ヨウコちゃん。
 そのえんぴつは。
 うそをかくためのえんぴつじゃなくて。
 きみのみらいをかくための。
 えんぴつなんだからね」

「はい!もうぜったいにおりません!」

部屋から出て行くヨウコちゃんの顔は。
以前にもまして。
元気になっているようでした。

別のドアから。
受付窓口にいた看護師さんが入ってきました。
ちょっと顔を曇らせています。

「先生。前から気になっていたんですけどね」

「何でしょうか?」

「どうして何でも直せる先生が。
 あの柱時計は直せないんですか?」

ちょっと怒っているようでした。

「だって音がうるさくて。
 しょうがないんですもの!」

「ああ。あれですか。
 ヨウコちゃんにも。
 同じことを言われましたよ。
 ははは」

先生はスタスタと歩いて。
柱時計のそばに立ちました。
そして。
柱時計の振り子の部分にある扉を開き。
中から茶色のガラス壜を取り出しました。
壜の口にはスポイドが付いていました。

「これなんだと思います?」

「きゃっ!」

看護師さんが口を押さえて驚きました。
壜の中で気持ちの悪い灰色の綿のようなものが。
うねうねと動いているのです。

「これは黴菌なんですよ」

先生は壜を眺めながら話を続けました。

「嫌な想いをそのままにしておくと。
 心の中に黴菌が入って。
 住み着いてしまうんですよ。
 そして。普通なら長いはずの命が。
 短くなってしまうんです。
 でも黴菌はね。
 ほんとは弱虫なんです。
 すごく臆病なんです。
 だから。たとえば。
 ここにあるような柱時計の音で驚かせてやると。
 びっくりして心から出ていくんですよ。
 この壜は。そうして出てきた黴菌を全部。
 吸い込む仕掛けになっているのです」

「まぁ。それじゃ。
 その壜は黴菌用の掃除機?」

「ははは。そうそう。
 そういうものですね」

看護師さんは壜を眺めながら。
感心したように言いました。
でもやっぱり気味が悪そうでした。

「先生が治しているのは。
 ガラス玉とか消しゴムじゃなくて。
 人の心というわけですか?」

「そういうことです。
 ガラス玉や消しゴムや鉛筆は。
 新しいものにして返しているだけですよ。
 ぼくには直せないんです^^;
 でも黴菌を取り出したから。
 あの子達は元気に生きてくれるはずです」

「まぁ・・・」

「でも内緒ですよ。
 本当の事を知ったら。
 誰も柱時計の音に。
 驚かなくなりますからねぇ」 

先生は。
くすっと笑いました。

しばらくして。
とうりゃんせ診療所の玄関に。
札が掛けられました。

本日終了。

と書いてありました。




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この作品は12年前@@;に書いて。
2年前に当ブログにおいて掲載したものです。
再掲載するにあたって。
改めて見直し加筆しております。

12年前。時は過ぎて行きますね(涙

半年間でしたが。
お話ばかり書いていた時期があります。
かなり熱を入れて書いたのですが。
初心者の誰もがそうであるように大方は独善的で。
構成不足・アイディア不足・文章力不足の。
取るに足らないものばかりでした。

それでも心に残るものもあり。
この作品はその中のひとつです。
いつものように?結末は考えず無計画に話を進めて~
という書き方でしたから。
ラストにはエラク苦労した覚えがあります^^;

でも改めて見直すというのもいいもんです。
良い面もイイ加減な面も両方見えて。
「自分の歳月」を感じる事ができるからです。

拙文にお付き合いくださり。
ありがとうございました^^)/