Welcoming cat・1-3
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「お客さ~ん!店ん中で走り回っちゃ困りますよ!」
鬼介は慌てて青年へ声をかける。
青年は大きな声にハッとして立ち止まる。

「すみません。珍しい蝶だったので。ついつい・・・」

頭を掻き掻き鬼介に謝る。
その間。ギフチョウはスーっと上がって天井に止まる。
そこで鬼介がホッとしたような顔を見せ。

「え~っとお爺さんは・・・」
振り返ると女の子と黒服のお爺さんがいない。
「おかしいな。帰ったのか・・・う~む」

仕方がないなと思いながら青年に尋ねる。

「で。ご注文の品は?」
「あ。そうですね。ラーメン+焼き飯でお願いします」
「はい。ちょっと待っててくださいよ」

鬼介は調理場に入る。
青年はカウンターに腰かけ天井のギフチョウを見る。
するとハネが小さく震え。おかしな変化を起こす。

「あれれ。色が変わってきたぞ。それにだんだん大きくなっている!」

その突拍子な声に調理場の鬼介が思わず。
カウンター内から顔を出し天井へ目を向ける。
「あ~!ありゃなんだよ!」

ギフチョウのハネが虹色に変わっていく。しかも3倍以上になっている。

青年が急いで携帯を取り出し耳に当てる。
「もしもし○○新聞社さんですか?今ラーメン屋で凄いことが起きてます」
なので是非。記者を寄越してくださいと依頼する。

「え?記者さんが来るの?」鬼介が青年に尋ねる。
ところが「あれ?」青年の姿が煙のように消えている。
「おいおい!ラーメンど~すんだよ!」

鬼介はカンカンに怒る。無理もない。
三人が知らないうちに訳もなく消えたのだから。
「いったいどうなってんだ!この店は!」



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最終回のつもりでしたが。
明日の見えないスクラップギャグ風のお話なので長くなりました。
次回は最終回にしたい・・・つもり^^;




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Welcoming cat・1-2
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しばらくしてラーメン屋「ひまわり」の玄関が開く。
「ごめんください」
金色の口髭・あご髭をたくわえた背の高い老人が入ってくる。

静かに微笑む顔。黒縁メガネと黒いスーツ姿。
鬼介は来客への言葉を忘れ呆けたように突っ立ったている。
「そこのお嬢ちゃんは何故泣いてるんだね?」

老人は鬼介に向かって小首をかしげる。

「あ・・・。あの。その。この子が店の前で急に泣き出して・・・」
鬼介は泣いている女の子のそばで頭を搔く。
「やれやれ。それは困ったことですね。さてどうしましょうか?」

老人はすぐ側の席に座って女の子に向き合う。

女の子は老人の顔を見る。
心のなかで叫ぶ。「あ。ケンタッキーのおじさんだ!」
フライドチキンの看板を思い出す。

「ご主人。コップ一杯の水を頂戴できるかね?」

鬼介がお盆にコップを乗せ老人の目の前に置く。
「はい。ありがとう。これで準備完了です」
老人はそう言いながらコップの上に白いハンカチを被せる。

「お嬢ちゃん。これを見てごらん」

老人はタネも仕掛けもありませんとよと言いながら。
ゆっくり手のひらを見せる。
女の子はしゃくり声をあげながら言葉に従う。

鬼介が尋ねる。「で。いったい。何が起こるんですかい?」

ちょうどその時。一人客のが入ってくる。
白い帽子を被り白いワイシャツ姿の若い男性だ。
鬼介はそれに気付かない。

目の前で起こることかしか頭にない。

「では。いきますよ!」老人がサッとハンカチをとる。
「あっ!」女の子と鬼介が奇声をあげる。それも無理はない。
コップの中から見知らぬ蝶が飛び出した。

離れた席に座っている白いワイシャツの若い男が叫ぶ。

「おお!ギフチョウじゃないか!」
翅(はね)を拡げた大きさは7cmぐらいで黄白色と黒の縦じま模様。
後翅の外側に青や橙・赤色の斑紋が並んでいる。

若い男は昆虫採集家らしく。手に採集用の網を持っている。

「こんなところでギフチョウを見られるとは!なんてラッキーなんだ!」
一人はしゃいで網を持ってギフチョウを追いかける。
ギフチョウは男をあざ笑うように素早く身をかわしあらぬ方向へ逃げていく。






Welcoming cat・1-1
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人通りの少ない路地に入ると。
小さなラーメン屋がある。
黄色いノレンには「ひまわりラーメン」
と書いてある。

玄関の左右にガラスケースがあり。
それぞれ招き猫が置いてある。
右には右手を上げた白猫(人を招く)
左には左手を上げた黒猫(金を招く)

店の主人の友人が開店初日に贈ってくれたもので。
商売繁盛の願いが込められていた。
主人は腕に相当な自信はあったが客は少ない。

「鬼介さん。あんたに愛想がないからだよ。
笑顔。笑顔だよ」
招き猫をくれた友人は笑いながら忠告した。

「へ!愛想笑いができるもんか!」

主人の鬼介は内心そう思っているが。
客がいないでは商売にならないから客が来る度に。
「いらっしゃいませ!」

自分なりに目いっぱいの笑顔を作ってみる。

ところが元来。鬼介の顔は名前の通り。
鬼瓦のようで笑っても泣いても怒ったような顔になる。
おまけに怒ったような口のきき方だ。

だから客は居心地が悪くなり。
食べるとすぐに店を出てしまう。
同じ客が来た事は一度もない。

「親父がこんな顔だったからなぁ。
 生まれつきじゃ。しょうがない」
鏡を見る度に鬼介はため息をつく。
そして最後に決まって。

「客が来ないのはコイツラの働きが悪いせいだ!」
と二匹の招き猫のせいにする。
招き猫はいつもそれを聞いているから不満でしょうがない。

ノレンが下げられると二匹は小さな声で語り合う。

右猫
「いくら人を招いても。主人の顔を見て逃げるんだもの」

左猫
「困るよね。このままじゃ。ぼくたちの立場がない」

どうしたら。お店を繁盛させることができるかと。
二匹は夜も寝ないで考えた。

ある日。

開店前の店の前にランドセルを。
背負った女の子が現れる。見たところ小学3年生。
「ねぇねぇ。ちょっとちょっと」

そう言って鬼介の腕を掴む。
突然のことに鬼介は。うむ!と唸って。
「なんだ!手を離せ!」

思わず女の子を怒鳴りつける。
その怒声に女の子は泣き出してしまう。

「あ。いや。そんなつもりじゃ・・・。
ごめんごめん。おいおい。困ったなぁ」
鬼介は謝ったが。

女の子は泣くのをやめない。

鬼介はどうしたものかと。
腕を組んで唸るばかり。若い頃から。
女は苦手で通っている。

「女は直ぐに泣くから嫌なんだよなぁ。
おいおい。どうしたら。
泣くのをやめてくれるんだ?」






お話~Lの小さな話
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カエルのLは。
田んぼの中に住んでいる。
何も好きで。
住んでいるわけではない。

父さん母さん。
爺さん婆さん。
先祖代々。
皆ここを離れずに。
住んでいたから。
自分もついでに。
住んでいるだけのことだ。

だから。
田んぼ以外の世界は。
何も知らないし。
ここ以外の生活など。
考えられない。

ぼんやり。
夕陽を眺めていると。
風が吹いて来た。

風は6月らしく。
蒸し暑く。
心地の良い風だ。

あ~。どうも。
こんにちは!
はい。これ。どうぞ!

風がそう言って。
手渡したのは葉書。
沼に住むカエルのKから。
届いたのものだ。

ある日のことだ。

Kが道に迷って。
田んぼの中に入り。
途方に暮れているところを。
Lが声をかけた。

その時のお礼の葉書だ。

田んぼから沼までの。
丁寧な地図とともに。
こう書いてある。

「いつぞやは。
 ありがとうございました。
 お陰で無事に家へ帰れました。
 さて。
 近頃は雨が続いて嬉しい限りです。
 お陰で散歩をするのに。
 いい季節になりました。
 ところで。
 よかったら明日にでも。
 こちらの沼へ遊びに来ませんか?
 美味しい水草ティーがあります。 
 カタツムリケーキもありますよ。
 いっしょに食べましょう!
 お待ちしております」

Kの気持ちは嬉しい。
けれど。
外の世界は怖いんじゃないかな?
Lは考える。

途中で鳥やネズミに。
出会うかもしれないぞ?
そしたら。
どこに隠れたらいい?
田んぼから出ないほうが安全だ。
そうに決まっている。

でも!カタツムリケーキが食べたいな!

翌日Lは。
片手に葉書を持って。
田んぼから出る。

雨に濡れた畦道。

黄色いタンポポ。
赤や青の紫陽花。
みんな宝石のように光っている。

用水路には。
たくさんのメダカがいて。
Lに向かって。
小さな手を振っている。

その上には。
緑色のイトトンボがいて。
ひと時も休まず。
前後左右に飛んでいる。

更に上を見上げると。
トンビがクルクル回って飛んでいて。
鋭い目で睨んでいる。

Lは思わず雑草の中に隠れる。

「やだな~。こわいな~。
 はやく行ってくれないかな~」

しばらくすると。
トンビは東の空に飛んで行き。
見えなくなる。

雑草から頭を出したLは。
ふ~っと。
大きな息を吐く。

胸のドキドキが止まらない。

大きく深呼吸をして。
気持ちを静め。
また沼に向かって歩き出す。

しばらく歩くと。
鮮やかな黄菖蒲の花が見える。
沼だ。急いで沼に駆け寄る。

蓮の葉の上にKがいる。

Lはザブンと水に入り。
蓮の葉まで泳ぐ。
水は温くて気持ちがいい。

「よく来たねぇ」

Kが笑顔で。
Lに手を差し伸べる。
蓮の葉に上がると。
ふわふわして。
まるで雲の上にいるようだ。

目の前に。
白いテーブルがある。

「どうぞどうぞ。腰かけて」

KはLにそう言うと。
カタツムリケーキを二つに切り。
小皿に取り分け。
葉っぱで作ったコップへ。
透明な緑色の水草ティーを注ぐ。

「これ。今朝作ったばかりなんですよ」

水草ティーで乾杯し。
カタツムリケーキに手を伸ばす。

甘い香りと。
トロッとした感触が。
舌に気持ち良い。

「美味しいねぇ」

Lが思わず。
顔をほころばせる。

Kも一口頬張って。
笑顔を返す。
「うん。美味しい!」

食べたり。
飲んだり。
話したり。

そうしているうちに。
これまであった田んぼ以外への不安や。
トンビを見た時の怖さが消えいく。

そう感じると。

水面で跳ねていた雨音が。
急に軽快なワルツのように。
聞こえ始めた。




お話~或る男の話
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ある日。男は自分の背中に羽があり。自由に空を飛べることを知った。そうして。その日から毎日毎日。空を駆け巡る生活が始まった。男は夢中になって縦横無尽に。思うがままに世界を飛びつくした。やがて何年かすると。羽の形が薄くなっているのに気が付いた。それでもなんとか飛べる。飛べるうちは飛んでいよう。男はそう思って尚も飛び続けた。しかし次第に大きかった羽がしぼみ始め。飛ぶことが困難になった。男は空を飛ぶことは充分に楽しんだし。今度は歩けばいいのだと気楽に考えていた。すべての羽が消えてしまい。男は地上に降り立った。そして気が付いた。自分の足が退化し。すっかり無くなっていたことを。