絵の話~渡辺崋山
285px-A_portrait_of_Takami_Senseki_by_Watanabe_Kazan.jpg
鷹見泉石像


病院帰りの途中。懐かしの我が愛する画材店に寄った。
自転車に使用するバッグが退色したので染料が欲しかったのだ。
あいにく頭にあった染料は既に売っておらず残念至極。

代わりに250円也のアクリル系絵具を購入。

さてたったひとりの後輩であるMくんが作業している。
その傍には「渡辺崋山」らしき細長い絵が何枚か重ねられている。
それと知ったのは薄い緑が鮮やかな人物像「鷹見泉石」があったからで。
凛々しい顔立ちと黒い烏帽子・脇差が画面をキュッと締めている。

画号を見るとやはり「崋山筆」となっている。

Mくん「ああ。それ本から切り取ったみたいですよ」
他にも何枚か拝見。筆使いの巧みさに加え。線に勢い・切れがある。
なにより描かれた線がまことに美しい。

「崋山ってどんな人ですか?」

Mくんから急に質問を受けた。
一瞬。うっ!となったが(だってあんまり経歴知らないしw)
「え~っと。本来絵描きじゃなくて政治家。もちろん武士だけどね」
と答えるのが精いっぱい(汗

端的に崋山の経歴を示すとこうなる。

幕末初期の頃の人物で江戸詰めの田原藩士(のち開国論者)
幼い時から絵の上手さで知られ自らも画人になることを夢見た。
家が極貧のため絵を描き家計の助けとし。やがて画人として有名になる。
また学問にも優れており著名な学問所を訪ね勉学に励みやがて家老にまで出世する。

家老職に付き高野長英らなどともにジャガイモ・ソバの飢饉対策を提案。
また開国論者であったが幕府の取り締まり厳しく海防論者を装った。
時代が激しく動き「蛮社の獄」により鳥居耀蔵に疑惑を持たれ自宅蟄居の身となる。

崋山の弟子は貧窮した崋山の家計を支えるために。
画会を開き金策に走ったが。それを幕府側に知られたため。
崋山は田原藩に迷惑が及ぶのを恐れ自決する。

享年48歳(1841年)。明治(1865年)に至る24年前のことだった。

崋山は少年時代から藩主に可愛がられている。
頭脳明晰でもあり成長するにつれ主な役職につく。
が。同時に崋山は「画人」に成りたいという願望があった。
才能を持ち合わせ高い技術も修めている。

もし仮に「画人」だけを目指しておれば自決することなどなかったろう。

しかし。彼はあくまで武士であり優秀な官僚だった。
どちらか片方だけの人生など送れなかった。
あくまで「画人」と「武士」であり続けることが彼の宿命だったのだ。




スポンサーサイト
閑話休題~心のタカラモノ
yjimage789.jpg



自分にとっての生きる意味を発見し。
それを得るために努力し達成することは。
「心のタカラモノ」を授かることに繋がる。

それはどんなに叩かれようが。
けして壊れることのない心の強さとなって。
老いても尚大切な誇りとなるだろう。




Welcoming cat・1-2
illust_gifu01.jpg




しばらくしてラーメン屋「ひまわり」の玄関が開く。
「ごめんください」
金色の口髭・あご髭をたくわえた背の高い老人が入ってくる。

静かに微笑む顔。黒縁メガネと黒いスーツ姿。
鬼介は来客への言葉を忘れ呆けたように突っ立ったている。
「そこのお嬢ちゃんは何故泣いてるんだね?」

老人は鬼介に向かって小首をかしげる。

「あ・・・。あの。その。この子が勝手に泣き出して・・・」
鬼介は泣いている女の子のそばで頭を搔く。
「やれやれ。それは困ったことですね。さてどうしましょうか?」

老人はすぐ側の席に座って女の子に向き合う。

女の子は老人の顔を見る。
心のなかで叫ぶ。「あ。ケンタッキーのおじさんだ!」
フライドチキンの看板を思い出す。

「ご主人。コップ一杯の水を頂戴できるかね?」

鬼介がお盆にコップを乗せ老人の目の前に置く。
「はい。ありがとう。これで準備完了です」
老人はそう言いながらコップの上に白いハンカチを被せる。

「お嬢ちゃん。これを見てごらん」

老人はタネも仕掛けもありませんとよと言いながら。
ゆっくり手のひらを見せる。
女の子はしゃくり声をあげながら言葉に従う。

鬼介が尋ねる。「で。いったい。何が起こるんですかい?」

ちょうどその時。一人客のが入ってくる。
白い帽子を被り白いワイシャツ姿の若い男性だ。
鬼介はそれに気付かない。

目の前で起こることかしか頭にない。

「では。いきますよ!」老人がサッとハンカチをとる。
「あっ!」女の子と鬼介が奇声をあげる。それも無理はない。
コップの中から見知らぬ蝶が飛び出した。

離れた席に座っている白いワイシャツの若い男が叫ぶ。

「おお!ギフチョウじゃないか!」
翅(はね)を拡げた大きさは7cmぐらいで黄白色と黒の縦じま模様。
後翅の外側に青や橙・赤色の斑紋が並んでいる。

若い男は昆虫採集家らしく。手に採集用の網を持っている。

「こんなところでギフチョウを見られるとは!なんてラッキーなんだ!」
一人はしゃいで網を持ってギフチョウを追いかける。
ギフチョウは男をあざ笑うように素早く身をかわしあらぬ方向へ逃げていく。






閑話休題~夏便り
66789.jpg



ワタシは世間一般から見ればつくづく親不孝者だ。
もう彼是20年ほど墓参りをしていない。
今年も行かないだろうし。やはり来年も行かないだろう。

それには理由があって。何故なら両親ともに極楽往生。
すでに魂は救われていると確信しているからで。
然るに何故墓参りが必要なのかさっぱり理解できないのだ。

だから形だけの墓参りは必要なく。
自宅にある両親の遺影を見ているだけで良い。
両親を思い出すことで心が和む。
(親を思う・慕う心だけで十分供養になっている)

さて。墓参りと言えば。
山口市内にある「中原中也」の墓を尋ねたことがある。
それはやはり暑い夏のことだったように思う。

意外だが「中原中也」と書かれた墓はなく。
「中原家累代の墓」となっており。遺骨はその中に収められている。
行った当時の墓のまわりは草ぼうぼうの畑だった。

不思議なことに墓前にはお賽銭のつもりか?
数十枚の10円玉・5円玉・1円玉が供えてあって。
今でも妙に鮮烈な記憶として残っている。
(他意はなく。いかにも日本人らしい気持ちの現れだろう)

~中原中也・死別の翌日~

生きのこるものはづうづうしく、
死にゆくものはその清純さを漂はせ
物云ひたげな瞳を床ゆかにさまよはすだけで、
親を離れ、兄弟を離れ、
最初から独りであつたもののやうに死んでゆく。

さて、今日はよいお天気です。
街の片側は翳かげり、片側は日射しをうけて、あつたかい
けざやかにもわびしい秋の午前です。
空は昨日までの雨に拭はれて、すがすがしく、
それは海の方まで続いてゐることが分ります。

その空をみながら、また街の中をみながら、
歩いてゆく私はもはや此の世のことを考へず、
さりとて死んでいつたもののことも考へてはゐないのです。
みたばかりの死に茫然ばうぜんとして、
卑怯にも似た感情を抱いて私は歩いてゐたと告白せねばなりません。





Welcoming cat・1-1
yjimage2TU296YK.jpg



人通りの少ない路地に入ると。
小さなラーメン屋がある。
黄色いノレンには「ひまわりラーメン」
と書いてある。

玄関の左右にガラスケースがあり。
それぞれ招き猫が置いてある。
右には右手を上げた白猫(人を招く)
左には左手を上げた黒猫(金を招く)

店の主人の友人が開店初日に贈ってくれたもので。
商売繁盛の願いが込められていた。
主人は腕に相当な自信はあったが客は少ない。

「鬼介さん。あんたに愛想がないからだよ。
笑顔。笑顔だよ」
招き猫をくれた友人は笑いながら忠告した。

「へ!愛想笑いができるもんか!」

主人の鬼介は内心そう思っているが。
客がいないでは商売にならないから客が来る度に。
「いらっしゃいませ!」

自分なりに目いっぱいの笑顔を作ってみる。

ところが元来。鬼介の顔は名前の通り。
鬼瓦のようで笑っても泣いても怒ったような顔になる。
おまけに怒ったような口のきき方だ。

だから客は居心地が悪くなり。
食べるとすぐに店を出てしまう。
同じ客が来た事は一度もない。

「親父がこんな顔だったからなぁ。
 生まれつきじゃ。しょうがない」
鏡を見る度に鬼介はため息をつく。
そして最後に決まって。

「客が来ないのはコイツラの働きが悪いせいだ!」
と二匹の招き猫のせいにする。
招き猫はいつもそれを聞いているから不満でしょうがない。

ノレンが下げられると二匹は小さな声で語り合う。

右猫
「いくら人を招いても。主人の顔を見て逃げるんだもの」

左猫
「困るよね。このままじゃ。ぼくたちの立場がない」

どうしたら。お店を繁盛させることができるかと。
二匹は夜も寝ないで考えた。

ある日。

開店前の店の前にランドセルを。
背負った女の子が現れる。見たところ小学3年生。
「ねぇねぇ。ちょっとちょっと」

そう言って鬼介の腕を掴む。
突然のことに鬼介は。うむ!と唸って。
「なんだ!手を離せ!」

思わず女の子を怒鳴りつける。
その怒声に女の子は泣き出してしまう。

「あ。いや。そんなつもりじゃ・・・。
ごめんごめん。おいおい。困ったなぁ」
鬼介は謝ったが。

女の子は泣くのをやめない。

鬼介はどうしたものかと。
腕を組んで唸るばかり。若い頃から。
女は苦手で通っている。

「女は直ぐに泣くから嫌なんだよなぁ。
おいおい。どうしたら。
泣くのをやめてくれるんだ?」